交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
最もな理由をつけて突っぱねられ、社長夫人だという証拠もない私では正面突破は無理かもしれないと思った時。

「深山グループの最高責任者の命がかかっているかもしれないんだ。ホテル内の捜索は許可してもらう。警備員も呼べ」

品の良いスーツを身につけた男性が私の横に並び、カウンターに名刺を叩きつけながら淡々とした声色で言い放った。
会ったことはなくても、この状況で私に助け舟を出してくれる人は一人しか思いつかない。

「新田さん…!」

救世主の登場だと強気な心が戻ってきたところで、コンシェルジュの狼狽しきった表情を見る。

「き、旧館に続く右手の廊下の方へ歩いていかれました…! そのすぐ後に男性二人も…」

「チッ。 時間が無いな」

新田さんが苛立ちと焦りを隠さずに呟く。と、そこへ数名の警備員が駆けてきた。コンシェルジュが呼んだのだろう。

私たちはコンシェルジュの言った方に急いだ。

人の通りが少なく、自分たちの足音だけが廊下に木霊する。そのうち、普通に生活していれば滅多に聞くことの無いだろう嫌な音が耳に入った。
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