交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
エレベーターを降りて社長室のソファについたところで、常務の目を見て言い放つ。

「申し訳ありませんがお断りしておいてください。俺はもう縁談は受けないと言いましたよね」

「そうは言ってもなあ、このまま一生一人でいるつもりか?跡取りはどうする。この会社をお前の代で終わらせるのか?」

「考えますよ。その辺りのことはなんとでもなります」

無理に一族経営を貫くことはない。時代と共にそんな考えが広まりつつあるものの、今の上層部はそんな考えが通用するほど柔らかくない。
はっきりとは言わなかったが、常務には伝わったらしく呆れたようにため息を吐き出した。

「おまえは顔はいいんだから、それで少しでも笑えば相手はすぐ見つかるだろうに。 ふぅ。一織のやる気がない時に見合いをしても上手くいかないのはもう知っている。今回は見送るが、おまえも将来のことをよく考えるんだ」

常務が部屋を出て行くとやっと湿ったスーツを脱いで脱力する。

結婚。俺にできるんだろうか。常務が言うように、おそらくチャンスはいくらでも転がっている。『イケメン社長』だと有名らしい俺がその気になれば、そのチャンスは意図も容易く実を結ぶのだろう。

だが、社長夫人の立場がほしいだの贅沢がしたいだの、そんな目的で近づいてくる人間と誰が生涯を共にしたいと思うだろうか。

俺だって、表に出ないだけで感情はある。結婚ともなれば、誰でも彼でも構わないという訳にはいかないだろう。

敢えて言うなら、見た目で判断しない、俺の立場を知らない人がいい……―――

『びしょ濡れじゃないですか!』

――いや、待て。どうしてここで彼女の顔が浮かぶんだ。今日初めて会って、少し話しただけなのに。

…彼女は、最後まで笑顔だった。

…経営が厳しいと言っていたな。少し調べるか。

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