交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
美味しくてあっという間に食べ終えてしまう。弁当も美味しかったけれど、やはりこの店の売りは暖かい食事なんだろう。それはきっと、気さくな店主夫妻が作り出す店全体の雰囲気も踏まえて。

すっかり和みつつ、仕事の参考になるかもしれないと考え込みそうになるのを堪え、今日はもう諦めて帰ろうかと思った時だ。

「ただいま〜! 久しぶりに残業しちゃったよ〜」

ガラガラと扉の開く音と、間延びした呑気な声が耳に届いた。

「ちょっと小梅! お客さんがいるのよ!」

「えぇ!? ご、ごめんなさい、いらっしゃいま、せ…って、深山さん!」

母親に小声で注意された彼女が俺を捉えると、心底驚いた顔をして数秒固まる。

「あら、小梅の知り合いなの?」

「えっと、……か、彼氏!なの!」

声高らかに言った彼女に、俺は何も飲んでいないのにむせそうになった。
今、彼氏だと言ったよな。
どういうことだ?俺はいつから彼女の恋人になったんだ……いや、急にプロポーズしたのは俺の方だろ。

これは、チャンスなんじゃないか…?
この契約を、成立させる。

「初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。小梅さんとお付き合いさせていただいています、深山一織と言います」

まさかこんな形で返事を聞くことになるなんてな。
突拍子もないのはどうやら俺だけではなく、彼女の方もまた大胆な性格らしい。




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