交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
一織さんは優しい。いつも私を気遣ってくれている。

最初こそ、そんな些細な気遣いに遠慮もしていたが、最近では厚意には素直に甘えることを覚えた。その方が、一織さんが嬉しそうにするからだ。
僅かにだけど、彼を頼ると、一織さんの頬が緩むのだ。

「一織さんも、お仕事お疲れ様です。今日は帰ってくるの、早かったんですね?」

「…あぁ、急ぎの用ができたから取引先から直帰したんだ」

「急ぎの? 何かあったんですか?」

「…あぁ、まぁ、」

一織さんが口ごもる。聞かない方が良かったかな。結婚したとはいえ、私たちはまだまだ知らないことも多い。細かいところまで干渉していたら、疎ましく思うこともあるだろう。

「ごめんなさい、やっぱりなんでもないです! あ、ご飯にしましょうか。帰ってきた時からいい匂いがして、お腹空いちゃいました!」

へらりと笑って言って立ち上がり、キッチンに行こうとするのを一織さんに止められた。がしりと思いのほか強い力で手首を握られて、驚いて振り返る。

「い、一織さん? どうしました、」

「小梅、遅くなって、悪い」

「えぇ? 何のことです、か…」

一織さんは徐にポケットに手を突っ込むと、小箱を取りだした。
ぽかんとしている間にその中身を手に取り、そのまま私の左手の薬指に嵌められる。
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