交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
営業中の小さな看板を裏っ返しに置き直したところで、後ろから低い声が聞こえた。

「あ…」

聞いたことがある声に、まさかと思って振り返る。
そこにはあの台風の日の男性がいた。手には傘を持っている。あの日貸した傘だろうか。風邪はひかなかったみたいで良かった。そういえば、お弁当は食べてくれたかな。

「どうやら来るのが遅かったみたいですね」

「あ、は、はい! すみません、21時半で終わりなんです」

「そうなんですね。やっぱり昼時に抜け出してくるんだったな」

「いえ、そんな。本当にまた来てくださるなんて、それだけで嬉しいです!」

彼の表情が少しだけ緩んだ気がした。

「弁当、とても美味しかったです。 それと、傘を」

嬉しい、なんて少し表現がストレートすぎたかと思ったけれど、彼は気にする素振りもなく言葉少なに告げ、傘を手渡す。
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