冷徹エリート御曹司の独占欲に火がついて最愛妻になりました

第34話 魔法が解ける朝

気づくと茉白は、遙斗の胸の中で堰を切ったように泣いていた。

「ごめ…なさ…ジャケットが…」

「余計なことは気にしなくていい」
遙斗は茉白の頭を撫でて優しく言った。

「…きょお…」

「うん?」

「…莉子ちゃんが辞めるって…言って…」
茉白はまとまらない言葉でポツリポツリと話し始めた。

「佐藤…さんも辞めちゃうんです…」
「うん」
遙斗には佐藤が誰だかわからないはずだが、茉白の言葉を相槌をうちながら静かに聞いた。

「莉子ちゃんのことは…妹みたいに思ってて…でもいろいろ教えてもらって…」
「うん。莉子先生だもんな。」
茉白は胸の中で小さく頷いた。

「影…沼さんは…数字が全てって言って…」
「…うん」

「Amselの人は…企画書、見てもくれなくて…」
「うん」

「…わたしの絵じゃ…何もわからないって…」
「それはちょっとAmselに同情するけど…」

「………」
「うそうそ」

「……いままで大事にしてきたことが…全部…だめって言われて…」
「うん」

「…でもたしかに数字は…伸びてて…でもそれ…もよくわからなくて…」
「…うん」

「父は…」
茉白が言葉を詰まらせる。

「お父さんが?」

「…父は…LOSKAは影沼さんが継ぐって…」
茉白の手が遙斗のジャケットをギュと強く掴む。

「……どこかで、LOSKAは私が継ぐって…思ってたんです…娘だからとか、そんなんじゃなくて…LOSKAが好きで、誰よりも努力してきたつもりだから…でも…そんなの……わたしの…思い込みだったみたいで…」
そこまで言うと、茉白は言葉を失くしてまた泣き出した。

「……そっか」

遙斗はしばらくそうして茉白を抱きしめながら、時々宥めるように頭を撫でた。
< 122 / 136 >

この作品をシェア

pagetop