冷徹エリート御曹司の独占欲に火がついて最愛妻になりました
「彼がAmselの責任者です。」
米良が女性に言った。

「影沼常務、先日納品いただいたマニキュアですが—」
米良が今度は影沼に言った。

「提出いただいている商品カルテにも商品のラベルにも“日本製”と書かれているのに、なぜか日本での使用が禁止されている成分が検出されましたよ。なぜでしょうね?」
米良は冷たい口調でにっこり笑って言った。

「そ、それは…」

「彼女がコスメ部門の商品管理の責任者です。別室でいくつか質問させていただきますので、どうぞそちらへ。」

(マニキュア…)
茉白はAmselで見た外国語の書かれた箱を思い出した。

(もしかして偽装…?)

「週刊誌に情報提供しますよ!?他人の婚約者を寝取ったって。」
影沼が往生際悪く言った。

「好きにしろよ。」
遙斗が心底面倒くさそうに言った。

「あんたと彼女は正式に婚約なんてしてないし、婚約してたなんて証言する人もいないだろ。」

「そ、そんなこと…」

「だいたい、週刊誌なんてとっくに根回し済みだ。あんたじゃどうにもできないよ。」

(え…!?)

影沼は項垂(うなだ)れて部屋を出て行った。


影沼がいなくなり、茉白、遙斗、米良の三人になった商談ルームはしばらくシン…と音を失った。

口を開いたのは茉白だった。

「…根回しって…?」

「ひとの新婚旅行中に面倒な依頼をしてくる大迷惑な御曹司がいまして…」
米良が言った。

「写真を撮られたと思うから、茉白さんの情報は一切出させずに、でも記事は掲載させろって無理難題を押し付けられました。」

「え…撮られたって気づいてたんですか?ならどうして掲載させろなんて…」

「一緒の雑誌に載ったら嬉しいんだろ?」

「え…!?」

遙斗がいじわるな笑顔を見せた。

「ていうのは冗談だけど、こうでもしないと事が動かないからな。どうせあのまま影沼と結婚するしかない、とか思ってたんだろ?」

「……はい…」
茉白はバツが悪そうに言った。

「…マンションの駐車場のセキュリティが甘過ぎるのは問題だけどな。」


「…あの…買収って…」

「あ、遙斗、茉白さんに肝心なこと言ってないだろ。」
米良が言った。

「そうだった。」

「え?」

「シャルドンがLOSKAを買収するのには一つだけ条件がある。」

「条件?」


「社長は真嶋 茉白。それ以外は認めない。」
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