冷徹エリート御曹司の独占欲に火がついて最愛妻になりました
「好きな相手でもいるのか?」

縞太郎の質問に、いつか影沼に聞かれた時と同じように遙斗の顔が浮かぶ。

「………いない、けど…」

「なら…」


突然の話に、茉白の頭はまだ混乱していた。
「ごめん、もう部屋に戻るね…」

「影沼君は、うちの経営を立て直すサポートを申し出てくれている。」
部屋に戻ろうとする茉白の背中に向かって縞太郎が言った。

「悪い話じゃない。」

「それは…」

茉白は振り向かずに立ち止まると、そのまま続けた。

「私にとって?それとも…会社にとって?」

「両方だと思ってる。」

「……おやすみなさい。」


茉白は自室に戻りドアを閉めると、気持ちを落ち着かせるように深い溜息を()いた。

「…なにそれ…」


ベッドに入ってからもモヤモヤとした不安な気持ちが込み上げてしまい、この日はよく眠れなかった。

(影沼さんと?私が…?)



「茉白さん。」
翌日、会社のエレベーター前で影沼が茉白に声をかけた。

「おつかれさまです。」

「…おつかれさまです…」
茉白はつい、不審そうな表情で影沼を見てしまった。

「そんな顔しないでください…。」
影沼が困ったように笑って言った。

「縞太郎さんから聞きました。私の気持ちを伝えてしまった…と。」

「………」

「茉白さん、今日仕事の後でお時間いただけませんか?」

(………)

「…はい。」

茉白はこの場で即座に断ってしまいたいくらい、結婚する気にはなれなかった。
しかしそれではさすがに影沼に失礼なことはわかっているので、食事の席で断ろうと決めた。
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