冷徹エリート御曹司の独占欲に火がついて最愛妻になりました
「影沼さんと結婚しても何も変わらないと思いますよ。どんな形でサポートするにしろ、LOSKAの名前は残してくれるっておっしゃってますし、私は変わらず企画営業ですから。」
茉白は楽観的に言った。

「…そんな都合の良い話、あるといいな。」

遙斗の言葉に、茉白は思わずムッとした。

「これまでのやり方が悪いから経営状況が悪化している。それをそのままにする新経営者がいたらただの馬鹿だ。」
遙斗は最初に会った時のような冷たい声色で言った。

「だから私が、良くできるように頑張りますので。」

「そうですか…陰ながら応援しますね…」
米良が肩を落として言った。

「じゃあ、今日はこれで…」
茉白は傘のサンプル数本を持って部屋を出ようとした。

「下まで送る。」

そう言って、茉白の手から傘を取り上げたのは遙斗だった。
突然のことに思わずドキッとしてしまう。

「だ、大丈夫です。雪村専務にサンプルを運ばせるなんて…」
茉白は遙斗の手から傘を取り返そうとした。

「“自分一人で抱え込まない、使えるものはなんでも使う”だろ?」
遙斗は煽るような不敵な笑みで言った。

「…こんな物理的な意味だとは思いませんでしたけど…じゃあ…お願いします。」

正直なところ茉白は一分一秒でも早く遙斗の顔の見えないところに行きたかったが、渋々提案を受け入れることにして、遙斗と共にエレベーターに乗り込んだ。

「さすがに、こんなに早く結婚を決めるとは思わなかった。」
遙斗が前を向いたまま言った。

「どうせ決めるなら早い方が良いですから…。」
茉白も前を向いたまま答えた。

「ふーん…」
遙斗はつまらなそうに言った。

「…もし、困ったことがあったら—」

「え…」

「その時は、真夜中でも早朝でも、俺に連絡しろ。」

遙斗は命令口調で言った。
茉白は思わず遙斗の方を見た。

「…そんな…影沼さんがいるのに…」

茉白が困惑していると、エレベーターが1階に到着した。
エレベーターを降りると、遙斗は無言のまま茉白を駐車場まで見送った。
エレベーターからエントランスまで、社員たちの注目が遙斗と遙斗を従える茉白に集まってしまっていた。
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