天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)
魔女は楽しそうに笑った。

「ニンゲン界に出張も多いからな。
それなりに、やらなくてはならない付き合いもある」

グルシアは、煙草の煙を、輪っかにつくって吐き出した。

「へぇー、そんな芸ができんのか」

愛らしい少女のような笑顔、
だが、すぐに煙草に火をつけ、
目を細めて、満足げに煙を吐き出した。

やっぱりこいつは魔女だ。
美少女のなりをしているが、だまされてはいけない。

「ワインは、まずまずのセレクトだな。
神へのささげ物は手をぬけないからな」

魔女は、瓶のラベルをチェックして、グラスを手に取り、天井の照明にかざした。

「美しいルビーレッドだ。香りは・・」
ワインを揺らし、鼻を近づけて香りを楽しんでいる。

「カシス、ベリー系の熟した香り、少しスパイシーでスモーキーさもある・・」

「さっさと話せ!」

イラつくグルシアを横目に、魔女は少し不満そうに首を傾げた。

「酒は楽しむものだが、取りあえず、仮面夫婦に乾杯といこう」

魔女は、もうひとつのテーブルに置かれているグラスの縁に、コツンと軽く自分のグラスをあてた。

< 23 / 67 >

この作品をシェア

pagetop