天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)
もし、この音に耐えられなかったら、封印措置が決定になるだろう。

魔女の視線は窓の外、風に揺れる木立に向けられている。

怒るのでもなく、悲しむのでもなく、<諦観>(ていかん)というか、
この先、起こるすべてを受け入れているような静かな表情をしていた。

サリエルがうなずいた。

その場の空気に、緊張感が走る。

一息いれて、グルシアの指が、ピアノの鍵盤に触れた。

静かな前奏

グルシアは音を奏でながら、考えていた。

甘い物を食べている時の、うれしそうな魔女の笑顔。

料理を出す時に、少し照れて、緊張している様子。

テーブルの花が、いつも飾られ、魔女はヨメの務めをはたそうと頑張っている。

この試験が終わったら・・

魔女を連れて、どこかのブドウ畑やワイナリーに行くのもいい。

海に沈む夕日や、どこまでも連なる山、昇る朝日、ニンゲン界は美しいものがたくさんある。

魔女に見せてやりたい。

そう、封印される前に・・

その時、魔女がすっと立ち上がり、グルシアの隣に座った。

グルシアの音に合わせて、魔女が音を合わせる。

グルシアは目を閉じた。

暗闇の中で、音色が軌跡を描いて、光り輝いて飛びかう。
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