天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)
ワインの香りが、部屋に広がり、グルシアのワイシャツが血のように赤く染まった。

「アンタには得になることは、
まったくないんだよ。
こんな無理して、徴(しるし)をつける意味がないじゃん」

「さっきも言ったが、意味も目的もない。
あるのは、お前が俺の側にいることを、俺が望んでいるだけだ」

「そばにいる事を・・望む・・?」

魔女は、おずおずと聞いた。

「ピアノを一緒に弾いた時に、確信した。
楽しいというより、もっと深い感情がある」

「深い感情・・?」

「ああ、失う事が・・お前がいなくなったら・・
俺は絶望で苦しむと思う、そういった感情だ」

グルシアはそう言いながら、
魔女を、強く抱きしめたい衝動にかられた。
が、すでに手首は縛られている。

「とにかく、アンタは言い出したら、ぜってー、引かないよね」

グルシアはその言葉に、微笑んだ。

「よくわかっているじゃないか」

「うん、アンタの事は・・魔界から考えると、長い付き合いだからね」

魔女はワインを口に含み、グルシアの頬に手を添えて、そっと唇を当てた。

くっ・・

グルシアののどぼとけが動き、
飲み込んだのがわかると、魔女は唇を離した。
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