図書館の彼
その日は図書館で本を読んでいた。
平日の夕方でそんなに人も多くなかったと思う。
視線の端に大量の本を抱えた人が写ったかと思えば、その人が盛大に本を落とした。
ほんの数メートルだったから、私のそばにも本が飛ばされてくる。
私はそれを拾って、その人に近づく。
「大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます。」
本を受け取って微笑んだ彼は、綺麗な顔をしていた。
同い年か少し上くらいだろうか。
なんとなく、この間思い出した昔のあの子に似ている気がしたけど、そんな偶然があるわけもない。
「じゃあ、私はこれで。」
「あ、待って。」
「はい?」
「何読んでたんですか?」
「これです。」
私は読みかけの本の表紙を彼に見せる。
「どんなお話です?」
「どんな……。
主人公が恋をしたことをきっかけに、自分を縛り付けていたものから自由になろうと頑張っていく感じ、ですかね?」
「面白そうですね。
今度借りてみます。」
「はい。」
「すみません、引き留めてしまって。
ありがとうございました。」
彼はまたニコッと笑って、大量の本を抱えたまま本棚の中へと消えていった。
……なんだったんだろう、あの人。