図書館の彼



その日は図書館で本を読んでいた。

平日の夕方でそんなに人も多くなかったと思う。


視線の端に大量の本を抱えた人が写ったかと思えば、その人が盛大に本を落とした。

ほんの数メートルだったから、私のそばにも本が飛ばされてくる。

私はそれを拾って、その人に近づく。


「大丈夫ですか?」


「はい。ありがとうございます。」


本を受け取って微笑んだ彼は、綺麗な顔をしていた。

同い年か少し上くらいだろうか。

なんとなく、この間思い出した昔のあの子に似ている気がしたけど、そんな偶然があるわけもない。


「じゃあ、私はこれで。」


「あ、待って。」


「はい?」


「何読んでたんですか?」


「これです。」


私は読みかけの本の表紙を彼に見せる。


「どんなお話です?」


「どんな……。
主人公が恋をしたことをきっかけに、自分を縛り付けていたものから自由になろうと頑張っていく感じ、ですかね?」


「面白そうですね。
今度借りてみます。」


「はい。」


「すみません、引き留めてしまって。
ありがとうございました。」


彼はまたニコッと笑って、大量の本を抱えたまま本棚の中へと消えていった。


……なんだったんだろう、あの人。


< 2 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop