不穏ラジオ−この番組ではみんなの秘密を暴露します−
☆☆☆

たまには当面人間でいることも役立つかもしれない。
ほとんど存在感のない私が後をついていても留伊は1度も振り向くことがなかった。
自分が尾行されているなんて思ってもいないんだろう。

小高先生のときもそうだったけれど、私はこういうことに向いているのかもしれない。
留伊は一旦校舎から出ると体育館を横切り、剣道部の建物へと向かった。
1階が剣道部のけいこ場で、2階にトイレと更衣室がある。

大谷高校に入学した最初の日に学校案内で連れてこられただけで、後は1度も足を踏み入れたことのない場所だ。
留伊はけいこ場の建物の鍵を自分で開けるとそのまま中へ入っていった。
どうやら顧問はまだ来ておらず、信頼のある留伊が色々と任されているようだ。

私は少し躊躇した後、そっと建物の中へと足を踏み入れた。
留伊は着替えをするために2階へ向かったようだ。
入って左手のドアを開けると広いけいこ場が現れる。
左の壁には竹刀がずらりと並んでいて奥の壁には窓が付けられている。

けれどその窓の向こう側は植木になっていて、ここで行われていることは外からじゃ見えないような作りになっている。
それで留伊が好き勝手できているのだとすぐに理解できた。
私は留伊が2階から戻って来る前にけいこ場から外へ出て、植木の隙間へと身を滑り込ませた。

細かな枝が皮膚に突き刺さってきて痛いけれど、そこはグッと我慢する。
しゃがみこんでけいこ場の様子を伺っていると、続々と部員たちが集まってきた。
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