メダカなキミ。
「…そうだったんだ。それは…楽しい思い出?」
由里が遠慮がちに尋ねると、アキラは首を少し捻ってから答えた。
「うーん、楽しいのと、悲しいのと、どっちもかな。」
アキラはそう言うと、手に持った肉巻きおにぎりを食べながら話し始めた。
「親に唯一、なんでも買っていいって言われたのが、夏祭りの屋台だったんだ。で、俺メダカすくいを選んだ。」
「へー、金魚すくいじゃなくて、メダカすくいっていうのもあるんだね。」
「うん。俺、ペット飼うのにその頃憧れてて。で、その夏祭りで金魚すくいの代わりにメダカすくいがあったから、やりたいって親に言って。」
「たくさん掬えた?」
由里がアキラの横顔を見つめながら尋ねると、アキラは首を振りながら言った。
「メダカって意外と動き早くてさ。結局掬えたのは1匹だけ。」