メダカなキミ。
「すごいじゃん、1匹でも。私、あぁいうの下手なんだよねぇ。1匹も掬えないかも。」
由里がそう言うと、アキラは「俺の隣の子は上手くて3、4匹掬ってたけどな。」と笑いながら言った。
「で、その貴重な1匹を連れて帰って、小さい金魚鉢みたいなの買ってさ、飼ってみたんだけど…」
そこまで言うと、アキラは肉巻きおにぎりの最後のひと口を食べてから言った。
「…死んじゃったんだよね。1週間くらいで。」
由里は、アキラが遠くを見つめる横顔を、黙って見つめた。
アキラは遠くを見つめていた視線を由里に戻すと、柔らかく微笑んでから言った。
「…知ってた?メダカってさ、寂しがりやなんだって。仲間と集団で行動するタイプの魚だから、金魚とかと違ってさ、2匹以上で飼わないと、寂しくて弱っちゃうことがあるんだって。」
そう話すアキラの顔も、なんだか寂しさを隠しているように由里には見えた。