忘れられないドロップス
(まだ十日か……)
有桜を迎えに行った大型公園は時期的に散り始めた桜のせいもあってか、この間よりも人が少ない。俺は有桜の手を繋ぐと、人の波に乗ってお花見エリアへと進んでいく。
「遥、桜まだちゃんと咲いてるね」
所々に植わっている桜の樹を見上げると有桜が嬉しそうに指先した。
俺は思わず顔が緩む。あの日有桜を手放してから、正直もう二度と有桜には会えないと思っていたからだ。
高校を卒業すれば、進学し、そこでまた新たな出会いがあって、友達も恋人も有桜ならすぐにできると思っていたし、有桜が俺のことを忘れて自分のやりたいことを真っ直ぐに見つけてくれたらそれで良かったから。
「遥、連れてきてくれてありがとう」
笑った顔の有桜に心臓が勝手にとくんとひと跳ねする。
「どーいたしまして」
俺は有桜の頭をくしゃくしゃと撫でた。
有桜の母親から連絡を貰った時は心底驚いたが、有桜との交際、さらには同棲まで認めてくれて本当に感謝の言葉しか出てこない。こんな俺のことを信用して任せてくれている有桜の母親に対して、恥じることがないよう仕事にも精を出し、有桜のことは何よりも誰よりも大切にしたい。
(いつか結婚してぇな)
有桜にはまだ言ったこともないし時期尚早だ。でも俺は結婚するならば、有桜以外考えられない。
(とりあえず、製菓学校出たら有桜はまだ二十歳……か、二年ほど働いて二十二でプロポーズ?)
「遥?どしたの?」
「え?あ、なんでもねぇし」
(さすがに結婚の話はいまの有桜には重いな……)