忘れられないドロップス
首だけ振り返れば亜由の掌にはスマホが握られていて、どうやって撮ったのか分からないが俺と亜由がホテルに入るところや実際に行為に及んでいるところまでも映っている。

俺はすぐにポケットの中の《《それ》》を確認するように手を突っ込んだ。

「へぇ、亜由。それ、わざわざ別の男に撮らせてたんだ?」

俺が亜由のことを名前で呼ぶと、ようやく亜由が唇を持ち上げた。

「まあねー、何かの時に役立つかなってユーチューバーの元カレに撮っといてもらった。あ、勿論架空の遥のSNSアカウント作成して遥の名前で拡散するね。てゆうかさ、リベンジポルノ?って結構お金になるんだよねー」

「へー、俺になりすました挙句その動画拡散して、クズの元カレと金儲け?」

「だね。アタシの顔は完璧に隠すけど、遥の顔はちゃんとモザイクかけた上で、あえて特定できるように加工させてもらう。遥顔いいし、結構食いつきいいと思うしね。遥がアタシから別れたいって言われて逆上してこれSNSに上げたってことにしよっかなー」

亜由が俺の目の前に近づいてくると俺の肩に手を置いた。繋いでいる俺の手を有桜がぎゅっと握るのが分かった。

「金で俺のこと買ってたの亜由の方なのに?」

「まあね。遥ならお金払ってでも抱いて欲しかったから」 

「あっそ」

「いいの?隣の彼女さん、この動画でたら今の遥の彼女ってことですぐ身元バレてSNSにあげられるよ?」

亜由の考えてることなんて大体分かってる。本気でするつもりはない。ただし亜由の相手をした場合だ。しなかったら何をするかは分からない。俺は慎重に言葉を選ぶ。

「それは勘弁して。俺コイツ居なかったら死ぬから」

「は?遥は誰とも本気にならないんでしょ?何言ってんのよ!」

亜由が俺の肩を爪が食い込むようにキツく握りしめた。

「もう、亜由の知ってる俺じゃないから」
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