忘れられないドロップス
「はぁっ……はっ……」

どのくらい走っただろうか。遥が人気(ひとけ)がほとんどない桜の樹の下で立ち止まると、すぐに私の顔を覗き込んだ。

「有桜、大丈夫?」

「うん……運動不足、なだけだからっ……」

高校にはオンラインで参加していた為、体育の授業は受けていない。久しぶりの全力疾走に両足がガクガクしてくる。

遥が私の身体を支えるようにしてぎゅっと抱きしめた。

「ごめんな」

「はる、か……?」 

遥の名前を呼んだのは、遥の謝罪の意味がわからないからではなくて、遥の声が泣きそうに聞こえたから。 

すぐに体を離すと遥が私の頬に触れた。

「嫌な思いさせたな、ドロップス食べて忘れていいから」

遥がポケットに入れようとした手を私はそっと握った。

「いらない」

「え?」 

「遥こそ……嫌だったでしょ?それに私……」

声が震える。心の中をちゃんと言葉にしようとするだけで、遥のことになるとすぐに涙が出そうになる。

でももう心に隠し事はしたくない。
いつだって遥と向き合いたい。
ずっと遥の側に居たいから。
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