忘れられないドロップス
「ん?有桜どした?」

「遥……やっぱりドロップス、その……貰っていい?」

「あ、いいけど?」

遥はポケットからドロップス缶を取り出すと私の口にカロンと入れた。すぐに口内に甘い香りが広がる。そして心臓は痛いくらいに駆け足になっていく。

「なぁ、有桜?何忘れたいの?」

遥に覗き込まれて私は恥ずかしくて俯きそうになる。

「えと……今からするコト……」

「え?」 

私は遥の首に両腕を回すと、大きく背伸びした。自分から重ねた唇はじんわりあったかくなって離そうとすれば、すぐに遥の唇が塞ぎ直す。

「ンンッ……」

息つく間もないほどにキスが繰り返されて呼吸が苦しい。トントンと遥の胸を叩けばようやく唇がぱっと離された。そして、すぐにさっきまであったのになくなっているモノに気づく。

「……あ……れ」

遥がにんまり笑うと、ドロップスをカロンと転がした。いつの間にか私の口内にあったドロップスは遥の口内に移動している。

「忘れんな」

「え?」

遥がいつものように意地悪く笑う。

「有桜から俺にキスしたこと」

「や……めてよ。その……恥ずかしい……」

顔が熱くてたまらない。周りに人気がないとはいえ、外で遥に自分からキスをするなんて、やっぱり穴があったら入りたい。
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