忘れられないドロップス
「やば、マジでドロップス食べてなかったら押し倒してたかもな」

遥が私を揶揄うようにケラケラ笑った。その少年みたいな笑顔は何度見てもやっぱり見惚れてしまう。

「もうー……」

なんだか気恥ずかしくなって、そっぽをむいた私を満足げに眺めながら遥はドロップスをカロンコロンと転がす。その音に乗せて、桜の花びらがひらひらと粉雪のように舞い降りてくる。

「見ろよ、綺麗だな」

遥が目の前の桜の樹を見上げた。私も隣に並んで桜を見上げる。

こんな風に遥と桜を見上げる日がくるなんて未だに信じられない。でも今、私の隣には遥がいて手を伸ばせば、いつだって弱い心も涙も遥が残らず抱きしめてくれる。

「有桜、写真とろーぜ」

「え?……うん」

遥が私の肩を抱くとそのままスマホのシャッターをきった。

「お、綺麗に撮れた」

「見せて」 

「ほら」

見れば、桜をバックに恥ずかしそうにはにかむ私と笑顔の遥が写っている。その笑顔は、いつしか遥が眠っている間にこっそりみた遥と那月の写真と笑顔が同じだった。

幸せそうに笑う遥に、あっという間にスマホの画面が見えなくなる。

「ほんと泣き虫なおんねーな。口開けろ」

「え?遥?」

強引に親指で開かれた唇に遥の唇が重なってドロップスがコロンと入れられた。

「もう俺の隣には一生有桜だけだから。泣くの忘れろ」

私は遥にぎゅっと抱きつくと、遥と桜を見上げながらドロップスをカロンと転がした。
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