忘れられないドロップス
「まあな、この間の土曜日はたまたま施工で人手がいるって(あらた)さんに言われたから仕方なくだけど」 

「新さんが、遥が働いている田中(たなか)インテリア産業の社長さんだっけ?」

遥がベッドサイドからドロップスを取り出すと口に放り込んだ。 

「そ。秋介(しゅうすけ)の後輩?遊び仲間?らしくて、俺インテリアに興味あるから紹介してくれてさ。見た目金髪でめちゃくちゃ強面なんだけど、いい人でさ」

「ふぅん。ねぇ、遥、社長さん金髪なのになんで遥は黒染めしたの?」

私のふとした疑問に遥が切長の瞳をきゅっと細めた。 

「黒は真面目に見えんだろうが」

「えと……真面目?」

遥と再会してからすぐに、私は母に遥とまた一緒に暮らしたい旨を伝えた。母は私がそう言い出すのが分かっていたようで、遥と暮らすにあたって三つの条件を出した。 

まずちゃんと製菓学校に通うこと、母からの連絡には必ず出ること。そして月に一度は遥と一緒に顔を見せに実家に帰ること。

そのことを遥と遥の姉の(なぎさ)に伝えると二人とも一つ返事で了承してくれた。そして私は晴れて十日前から遥との同棲を再開した。 

「俺、もうマジで真っ当に生きていくからな!あと黒色だと清楚だしなっ」

遥は満足そうにニッと笑う。

(真っ当……清楚……?私から見たら、赤茶でも黒でも遥は遥だけど……口も……相変わらず悪いし……) 

心の中であれこれ思いを巡らせていた私の手首を掴むと遥が、ベッドに縫い付けた。

「きゃっ……ちょっと遥……」

遥はそのまま私の唇を塞ぐとスカートの中に手を入れてくる。
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