忘れられないドロップス
「えと、渚さん、これ……」

臨月を迎えた渚は産休に入っていて、一昨日も遥と秋介が帰って来る前に一緒に夜ご飯を作ったのだが、そのとき渚から着れない洋服を貰って欲しいと言われていた。

「どれもあたしには若すぎるし、そもそもお腹こんなだしね、良かったら遥とのデートにどうぞ」

「嬉しい……ありがとうございます!」

「いいえ、あたしの可愛い妹だから」

渚が私をぎゅっと抱きしめる。渚からはいつも遥と同じ優しい甘い匂いがする。

「渚さんがお姉さんとか……嬉しい」

「私もだよ、可愛い妹ができて本当嬉しい」

そして渚が急にヒソヒソ声になる。

「紙袋の中の淡いベージュのワンピース、遥好みだからね。気合い入れるデートの時にどうぞ」

それだけ言うと、渚が頬を染めた私から体を離してにこりと微笑んだ。

「こんなヤツだけど、ほんと末永く宜しくね」

「はいっ」

「おい有桜、はいじゃねーよ!あと姉貴もそろそろ有桜返せ」

遥が私を抱き寄せようとして渚が今度は遥の脛を黙って蹴った。

「生意気っ」

「痛ってーな!妊婦のくせに、いちいち暴力振るうなよなっ」

「ドロップス食ってんでしょ」

「すぐに忘れるかよっ」

「あっそ。ほんと……困った叔父さんだよねー」

渚がボブを、さらりと揺らしながら大事そうにお腹を摩った。秋介と授かり婚をしたと聞いた時は驚いたが、妊娠してから渚は前よりも柔らかい雰囲気になった。

(渚さんもついにお母さんか……)
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