【完結】鍵をかけた君との恋
 九時頃になって、父は「奈緒を迎えに行く」と、結局彼女のスナックへと出かけて行った。私はブラックコーヒーを片手に机に向かい、受験勉強。カリカリとペンを走らせる音を聞けば、理解云々に関わらず、勉強した気分にはなる。
 ふと力を入れすぎたせいで折れた芯。私の心に似ていた。

「なんなの、もう……」

 家族とクリスマスを過ごせても、美味しいチキンを頬張れたとしても、そこに喜怒哀楽など存在せず、代わりに味わうのは、虚無感だけ。暴力を振るわれるわけではないし、外に放り出されるわけでもないけれど。

「とうに家庭崩壊ってやつ」

 改めて気付かされた現実に、涙も出ない。


 翌日。勇太君の抱える授業が終わる時間に合わせ、私は彼の塾まで行った。

「ごめんね、塾の前なんかで待ち合わせで」
「ううん。勇太君、塾お疲れ様」
「それと、本当に悪いんだけど、あと一時間後にまた授業入っちゃって、戻らなきゃいけないんだ」

 ごめんと顔の前で手を合わせる彼。私よりも彼の方が落ち込んでいるように見えた。

「じゃあ、そのへんでも散歩する?」
「寒いしどこか喫茶店でも入ろうよ。俺が出すから」
「気を遣わなくていいよ。一時間しかないし、サクッと歩ける外にしよう」

 怒りは微塵も湧かなかったのに、どこか素っ気ない態度にはなったかもしれない。
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