【完結】鍵をかけた君との恋
「混んでるわねえ。みんな、はぐれないようにね」

 拝殿の前には長蛇の列。楓は陸の母と手を繋ぎ、私は陸の袖を持った。

「あの歳で親と手繋ぐか、普通」

 前列の楓に聞こえぬよう、陸は呟く。

「仲良い親子の証拠だよ」

 陸の家族は、私の理想だ。
 くるっと振り向いた楓が聞く。

「乃亜ちゃんは何お願いするの?やっぱり受験合格?」
「そうだね。それは絶対祈っておかないと。楓は何にするの?」
「んー、健康とか?」
「えーっ、おばさんくさいなあ」

 白い息と共に、楓は笑った。そんな彼女に、陸の母が言う。

「楓、健康も大事だけど、お兄ちゃんの合格も願ってあげなさい。落ちたら楓と同じクラスになっちゃうかもしれないわよっ」
「もうそれ、お兄ちゃんじゃないじゃん」

 そのやり取りに、陸は「おい」と声を挟む。

「中学生に留年制度なんてないだろうがっ。それにどっちにしたって、兄は兄だ」
「兄らしいとこ見たことないけどね」
「はあ?楓はもっと可愛いらしくしろっ」

 その発言には、「女はこうあれ的なやつやめろ」と私が陸の頭にチョップを入れた。
 列の最後尾についてから参拝できるまで、おそらくけっこうな時間を要したのだろうけど、そんなことは微塵も感じさせないくらい、楽しい時間だった。


「乃亜。何か燃やすのある?」

 神に願いごとを告げ終わり、楓達と別行動中、お焚き上げの前で陸が聞いた。

「ううん。何もない」
「うい」

 ぱらぱらと幾つかの御守りを炎に落とす陸。それ等がパチパチと、燃えていく。

 パチパチ、パチ、パチパチ。

 リラックスできる音だった。私は炎の傍にしゃがみ込む。

「陸って御守りとか持つタイプなんだね。意外」
「ああ、毎年家族で神社来るしな。なんとなく買っちゃう」
「ふうん。どんな御守り買うの?」
「色々。交通安全とか、病気平穏とか」
「へえー、想像つかない」
「一応、信仰心あるんだなあっ」

 そこで会話が終わり、炎に目を移す。パチパチとランダムに奏でられる音と、不規則なその動きに心奪われて、思わず無になる。何も考えない時間が、ずいぶんと久しく感じられた。

「乃亜、寝てる?」

 瞳を閉じた私に、陸が聞く。

「おーい、乃亜」

 少しだけ、目を開けた。

「んーん、起きてる。気持ちいいだけ」

 私のその言葉で陸も腰を下ろすと、炎に手を翳していた。

「あったけー」

 このままここに、ずっといたい。
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