【完結】鍵をかけた君との恋
「あっちで甘酒くれたよー」

 紙コップとりんご飴を携えやって来た楓達に、痺れてきた足を立たせる。

「いいな、楓の飴。どうする陸、私達も出店の方に行ってみる?」
「せっかくだし、行くか」

 陸も伸びをしながら腰を上げると、財布の中身を確認した。腕時計に目を落とす陸の母。

「じゃあ、私と楓は先に家へ帰るわね。乃亜ちゃん、帰りは陸に送ってもらって」
「はーい。また今度お家行きますね。今年もよろしくお願いしまーすっ」

 手を振るふたりの姿は、人混みですぐに見えなくなった。

「よし、それじゃあ酒でも飲み行くか」
「甘酒でしょー?」
「それでも酒だっ」

 陸は私の手をとると、人混みを掻き分け進んで行く。私もその手をぎゅっと握った。


「え!何杯飲んでもいいんですか!」

 甘酒を無料配布しているテントの下で、私は今年一番の大声を出す。

「そんなに飲んだら、気持ち悪くなるぞ」
「だって私達未成年が堂々とお酒飲めるなんて、こんな時だけじゃんっ」
「やめとけってっ」
「大丈夫大丈夫!」

 正月の浮かれ気分もあってか、私は然程好んでもいないこの味を、何杯も胃に沈めていった。

「陸はもういいの?もっと飲もうよ」
「じゃあ、あと一杯だけなっ」
「たった一杯でいいの?もう少し飲めばいいのに、きゃはははっ」
「お前酔いすぎっ」

 もう甘酒など一生見たくもない。そう思ったのは、帰り道だった。


「うげ」
「だから言ったろ……」

 突然の嘔気に襲われて、蹲り動けずにいた私に陸は言う。

「コンビニのトイレ、借りるか?」
「やだ……吐くの疲れる……」
「んなこと言ったってどうすんだよ。じゃあ、ここで吐くか?」
「だからっ、吐きたくないんだってばっ!」
「新年からめんどい女だなーっ」

 呆れた溜め息をつかれた気がした。「ほら」と陸に言われた気がした。体が宙に浮いた気がした。目の前がグルグルしてぼやけていたけれど、私のブルゾンと同じ色に掴まった。
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