【完結】鍵をかけた君との恋
東の空が白む頃、ふたりでそろりと家を出る。
「初日の出まだ?」
「まだだよ。それに、こっちじゃねえよ」
「そっか。川の方からはいつも、夕陽が見えるもんね」
元旦からふたりきり。波音優しく、小鳥が飛び交う。
「あ。そうだ」
ゴソゴソとポケットを漁った陸は、ひとつの御守りを取り出した。
「これ、乃亜の分ね。合格祈願」
袋にも包まれていない、赤い御守り。それをぽんと私の手に置いてくる。
「いつ……買ったの?」
「乃亜が酔っ払ってる時。あ、ちなみにおソロね。俺は黒にしたわ」
「おソロって言うかな、これ。あの神社で買った人みんなお揃いなんじゃ──」
「おソロって思えばおソロだっ」
桃色の御守りが一瞬頭を過ぎり、素直には喜べなかったけれど。
「ありがとう、陸」
胸はきゅんと囀った。
まだ誰も起床していない家へ帰宅すると、食卓にはメモが置いてあった。
『乃亜ちゃんへ。お蕎麦の具が冷蔵庫にあるから、もしよかったら食べてね』
山菜の乗った皿は冷蔵庫の中央に、ガステーブルの鍋にはちょうど一人前残された蕎麦。奈緒さんはもしかすると、この家で初めて迎える年越しを楽しみにしていたのかもしれない。
尻軽、浮気性。飽きっぽい。そんなイメージしか抱けぬ父が連れてくる女性は皆大体、私のことなど金魚のふんと捉えており、愛のひとかけらだってくれはしない。でも、奈緒さんは違う。私を一個人として、ひとりの人間として認識してくれている。
少し休んで起きたら食べようだなんて思っていたら、私はたっぷり夢を見た。
「初日の出まだ?」
「まだだよ。それに、こっちじゃねえよ」
「そっか。川の方からはいつも、夕陽が見えるもんね」
元旦からふたりきり。波音優しく、小鳥が飛び交う。
「あ。そうだ」
ゴソゴソとポケットを漁った陸は、ひとつの御守りを取り出した。
「これ、乃亜の分ね。合格祈願」
袋にも包まれていない、赤い御守り。それをぽんと私の手に置いてくる。
「いつ……買ったの?」
「乃亜が酔っ払ってる時。あ、ちなみにおソロね。俺は黒にしたわ」
「おソロって言うかな、これ。あの神社で買った人みんなお揃いなんじゃ──」
「おソロって思えばおソロだっ」
桃色の御守りが一瞬頭を過ぎり、素直には喜べなかったけれど。
「ありがとう、陸」
胸はきゅんと囀った。
まだ誰も起床していない家へ帰宅すると、食卓にはメモが置いてあった。
『乃亜ちゃんへ。お蕎麦の具が冷蔵庫にあるから、もしよかったら食べてね』
山菜の乗った皿は冷蔵庫の中央に、ガステーブルの鍋にはちょうど一人前残された蕎麦。奈緒さんはもしかすると、この家で初めて迎える年越しを楽しみにしていたのかもしれない。
尻軽、浮気性。飽きっぽい。そんなイメージしか抱けぬ父が連れてくる女性は皆大体、私のことなど金魚のふんと捉えており、愛のひとかけらだってくれはしない。でも、奈緒さんは違う。私を一個人として、ひとりの人間として認識してくれている。
少し休んで起きたら食べようだなんて思っていたら、私はたっぷり夢を見た。