【完結】鍵をかけた君との恋
 洗面所へと立った陸を機に、女子トークを再開させようとすると、口角を上げた楓に肘で突つかれた。

「ねえ乃亜ちゃん。体育祭の彼とは別れたんだよね?」
「ああ、勇太君?別れたよ」
「じゃあ、お兄ちゃんどお?」
「え」
「お兄ちゃん、絶対乃亜ちゃんのこと好きだもん。付き合ってあげてよっ」

 陸と私の間で交わされたフりフラれを、彼女は何も知らないのだろう。期待に胸を膨らまさせて申し訳ないのだが、私の口からはこんなことしか言えない。

「陸とはただの幼馴染だよ」

 途端に彼女の顔が歪んだ。

「えー。お兄ちゃん、超葛藤してんのにっ」

 ピンッと楓の人差し指が立つ。

「この前ね、夕ご飯中にやたらとスマホ触るから、覗き込んでやったの。そしたら乃亜ちゃんとのメール画面開いてるのに、送信ボタンで手が止まっちゃってるんだよ。おかしいでしょ?それにね──」

 人差し指そのままに、中指も立てた彼女。陸が洗面所から顔を出す。

「おい楓!余計なこと言うなっ」

「はいはい」とあしらって、楓は笑う。

「お兄ちゃん、バレバレだっつーのっ」


「よしっ。じゃあ朝飯買いがてら、漫画も買うか。楓、何かいる?」

 近所を歩けるくらいまでに身なりを整えた陸が聞く。

「お菓子ー。甘いのー。お兄ちゃんのバイト代でよろしくー」
「まだ給料入ってねえよ。後できっちり請求するぞ」

 そんなふたりの会話は、私の脳に確と残った。
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