【完結】鍵をかけた君との恋
「陸ー。歴史日本漫ガタリ、貸してー」

 双葉と別れた夕方。玄関扉を開けた陸は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。

「……は?な、何、突然」
「漫画貸してってば。あがっていい?」
「いや、いいけど……」

「お邪魔しまーす」と、ずかずか無遠慮に、陸の部屋へと上がり込む。

「ってか、この前一緒に読んだじゃん」
「そうだけど読み返したくなったのっ。どこにあるの?」
「どこだっけな。ちょっと待て、探す探す」

 本棚を漁る陸の後ろ、彼のベッドに腰を下ろし、週刊誌をぱらぱら捲って時間を潰す。
 横顔だけで、彼は聞いた。

「そういや風邪治ったのかよ。ってかなんで森といたの?」
「治った。森君はお見舞いに来てくれた」
「……そっ」

 発見した漫画本をベッドに置いて、陸はどかっと隣に座る。そして私の髪に触れた。

「どんどん色抜けて明るくなってくな、乃亜の髪。もうすぐ金髪じゃん」

 髪の毛一本一本、陸がいる左半身に、全神経が集中する。

「似合ってるよ」

 そんな言葉に、もう一喜一憂などしない。

 ベッドから勢いよく立ち上がった私は、本を手にしてお礼を告げる。

「ありがとうね。すぐ返すから」
「おう。いつでもいいよ」


 陸は玄関までついてくる。

「俺もこれからバイトだし、ついでに送ってくよ」
「何時から?」
「五時」
「まだちょっと早くない?」
「うっせ。送らせろ」

 そう言って、陸は制服姿のまま靴を履く。異なる制服を着て彼と並ぶのは、これが初めてだ。
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