【完結】鍵をかけた君との恋
 夕飯時はわあきゃあと女だけで盛り上がり、陸とは大した会話もしなかった。

「陸、おやすみ」
「じゃあなあー」

 楓の部屋の前、陸に手を振ると、彼も自室へ戻って行った。

 楓に借りた充電器に携帯電話を繋げながら、私は父へとメッセージを作成する。

『今夜は陸の家に泊まります。明日の朝に帰ります』

 画面を覗いた楓は言った。

「なんかこれ、お兄ちゃんとお泊まりして、朝帰りするみたいだね」
「え、そうかな?じゃあ、こう?」

『陸と楓とおばさんと寝てから帰ります』

 再び画面を覗く彼女。

「なんか変だけど。ま、いいんじゃない?」

 あははと笑って、電気を消した。

 ひとつの布団の中で触れ合う肌の温もりに、ふと母と添い寝していた頃を思い出す。

「乃亜ちゃん、お兄ちゃんと付き合っちゃえばいいのに」

 しんみりしていた気分を抹消したのは、唐突すぎる、楓のひとこと。

「はいっ?」
「だって絶対好きじゃん、お兄ちゃんって乃亜ちゃんのこと」
「わ、私、彼氏いるからっ」
「え!そうなの!?」
「う、うん」
「なんだあ、お兄ちゃん撃沈ー」

 妹にすっかり読まれていた陸の恋心。笑いが溢れる。

「ラブラブなの?その彼氏と」

 そして一転、ぎくりとさせてくる。しどろもどろに答えてしまう。

「ラ、ラブラブの定義がわからないからなんとも言えないけど……別れるまではそうなんじゃない?」
「え、どういう意味」
「恋愛なんかすぐ終わるじゃん、別れるじゃん。だからそれまでの期間はラブラブって言っていいんじゃない?」

「うーん」とひとつ唸った楓はこう言った。

「確かにうちのママも離婚してるしなあっ。愛が続かなかった証拠だよね」

 私が陸と楓と出逢う数年前に、母親に引き取られた彼等。「うん」とは頷けなかった。

 時計の針の音だけが、しばらく聞こえた。

「乃亜ちゃん、寝た?」
「うっすら起きてる……」

 体勢を変えた楓は、私に背を向ける。

「あのね乃亜ちゃん。私はお兄ちゃんが乃亜ちゃんのことが好きだって気付いた時、すごく嬉しかったの」
「え?」
「もしかしたら乃亜ちゃんが、私のお姉ちゃんになるかもって一瞬でも思ったら、嬉しかった」
「楓……」
「なんてね。おやすみっ」

 そう言って寝息を立て始めた彼女の背中に額をつけて、瞼を閉じる。
 楓がとても愛おしかった。
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