【完結】鍵をかけた君との恋
「おはよう。よく眠れたかしら?」
翌朝。炊事の音で目覚めた私は、台所で忙しそうな陸の母をぼーっと眺めていた。
「まだふたり共起きないから、乃亜ちゃんは座ってゆっくりしてて。はい、コーヒー」
そう言って彼女が食卓に置いてくれたブラックコーヒー。温かい。
「そういえば、お父さんなんだって?急に外泊になって、心配していないかしら」
その言葉で、私はすっかり頭の外だった父を思い出し、携帯電話の画面をつける。
メッセージゼロ。着信ゼロ。落ち込みたくなどないのに、溜め息は漏れる。
「ないです。返答」
「まあ、ダメなお父さんねえ。娘が帰ってこないっていうのに」
カチャカチャと皿を洗う手を止めた彼女は、その手をエプロンの裾で拭って、話し出す。
「乃亜ちゃん、うちにはいつでも来ていいんだからね。陸も楓も、乃亜ちゃんの家族みたいなものなんだから」
食卓傍。棚の写真立てに目を移す彼女。
「私、乃亜ちゃんのお母さんと約束したのよ。乃亜ちゃんのこと、絶対守るねって」
その写真立ての中には母の笑顔があった。何度もここへ遊びに来ているというのに、私は今の今まで、この笑顔に気付いていなかった。
「乃亜ちゃんのお母さんね、もう命が短いって知った時こう言ったの。『お父さんは遊び惚けていて、乃亜を大切にしてくれるかわからない。だから何かあった時はよろしくね』って」
「え……」
「亡くなる前、彼女がずーっと気にしてたのは乃亜ちゃんのこと。『こんなことになるなら、妹や弟産んであげればよかった』って。『乃亜をひとりにしちゃう自分は最低だ』って。ずっと泣いてたわ」
その瞬間、カップの中にぽたんと垂れた雫。それはなんだろうと目で追えば、またぽたんとひと粒落ちた。
「だから乃亜ちゃん、たくさん頼って!」
ティッシュを私に差し出した彼女は、そのまま自身の目元も拭った。
「ありがとう、おばさん……」
彼女の愛が、心にじんわり浸透していく。生前残してくれた母の愛は、今こうして私に届く。
翌朝。炊事の音で目覚めた私は、台所で忙しそうな陸の母をぼーっと眺めていた。
「まだふたり共起きないから、乃亜ちゃんは座ってゆっくりしてて。はい、コーヒー」
そう言って彼女が食卓に置いてくれたブラックコーヒー。温かい。
「そういえば、お父さんなんだって?急に外泊になって、心配していないかしら」
その言葉で、私はすっかり頭の外だった父を思い出し、携帯電話の画面をつける。
メッセージゼロ。着信ゼロ。落ち込みたくなどないのに、溜め息は漏れる。
「ないです。返答」
「まあ、ダメなお父さんねえ。娘が帰ってこないっていうのに」
カチャカチャと皿を洗う手を止めた彼女は、その手をエプロンの裾で拭って、話し出す。
「乃亜ちゃん、うちにはいつでも来ていいんだからね。陸も楓も、乃亜ちゃんの家族みたいなものなんだから」
食卓傍。棚の写真立てに目を移す彼女。
「私、乃亜ちゃんのお母さんと約束したのよ。乃亜ちゃんのこと、絶対守るねって」
その写真立ての中には母の笑顔があった。何度もここへ遊びに来ているというのに、私は今の今まで、この笑顔に気付いていなかった。
「乃亜ちゃんのお母さんね、もう命が短いって知った時こう言ったの。『お父さんは遊び惚けていて、乃亜を大切にしてくれるかわからない。だから何かあった時はよろしくね』って」
「え……」
「亡くなる前、彼女がずーっと気にしてたのは乃亜ちゃんのこと。『こんなことになるなら、妹や弟産んであげればよかった』って。『乃亜をひとりにしちゃう自分は最低だ』って。ずっと泣いてたわ」
その瞬間、カップの中にぽたんと垂れた雫。それはなんだろうと目で追えば、またぽたんとひと粒落ちた。
「だから乃亜ちゃん、たくさん頼って!」
ティッシュを私に差し出した彼女は、そのまま自身の目元も拭った。
「ありがとう、おばさん……」
彼女の愛が、心にじんわり浸透していく。生前残してくれた母の愛は、今こうして私に届く。