【完結】鍵をかけた君との恋
 大きな欠伸をしながらも、陸は私の家までついて来てくれた。

「親父さんいるよな。俺、マンションの外で待ってるわ。さすがに朝イチ一緒のとこ見られるのは気まずい」
「あははっ。じゃあ、急ぐから待ってて」

 そおっと玄関の扉を開ける。父の豪快な鼾が聞こえてくる。自室で今日の授業に必要なものを鞄に詰めて、また玄関へと向かう。
 誰も気にしない、心配されない。わかっていた。

 マンションの下。陸は柱を背もたれにして待っていた。携帯電話を弄るでもなく、雑誌を読むでもなく、ただただ遠くの青空を眺めていた。何もしていない陸。そんな彼を見るのは初めてかもしれない。

「お待たせっ」

 空と陸との間、私は笑顔で入り込む。

「おう。行くか」
「今日は六限まであるね」
「ああ、だるすぎる」

 ゆっくりと歩み始めた私達。しかしすぐさま立ち止まったのは陸だった。

「歴史日本漫ガタリ、貸すの忘れた」
「あ、本当だっ。借りる気満々だったのに〜」
「まあまあ、また今度な」

 再びゆっくり歩む陸。朝陽と彼の背中。私はこの光景を、懐かしく感じていた。

「陸と一緒に登校するの、小学生以来?」
「かもなあ。って、なんで笑ってんの?」

 どうしてだか、嬉しくなる。

「なんでもなーいっ。うふふふふ」
「きも。こわ。やば」

「ひどい!」と言って、陸の尻を鞄で叩く。尻をさすった陸は言う。

「はいはい、早く学校行きまっせ」

 理不尽な私の暴力に、陸は怒ったことがない。それは、幼い頃からずっとそうだ。

「あれ?陸もちょっと、口元笑ってるよ」
「わ、笑ってねえし!」

 赤くなる陸の耳。可愛いと思った。
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