【完結】鍵をかけた君との恋
「送らなくていい」と玄関先で告げたけれど、陸は私の後ろをついてきた。どちらが言うまでもなく、遠回りの川沿いを歩く。

 秋めいた風。そろそろ暑さから解放される。

「乃亜」

 風と遊ぶ髪の毛を押さえていると、隣に追いついた陸が言う。

「俺、今日のことちゃんと勇太に……勇太に正直に、言うべきだよな?」

 私は愚か者だから、あれだけ求めた陸のことを、疎ましくも感じてしまうんだ。

「言わなくていい。事故みたいなものだし」

 こんな風に、冷たく言い放つ。

「俺は、事故だとは思ってないよ」

 だけど陸は、続けてくる。

「確かにどうかしてた。乃亜が好きでもない勇太とヤッたって知ってムカツいて、感情のままにお前を抱いた。でも俺はまだ足りねえっ。もっとお前が欲しいし、アイツから奪いたいって思ってるっ」

 こんな日に限って、どうして川辺には誰もいないのだろう。ここが人溢れる雑踏の中ならば、陸だってこんなにも声を荒げないのに。

「俺は乃亜のことが好きだから、諦められねえよっ!」


 手を離せば、髪が旗のようにはためいた。川がちゃぷんと波をうつ。絡む視線。

「もう、やめて……」

 歯の隙間から、精一杯陸を否定した。

「そんなこと言わないで、幼馴染でいてよっ……」

 恋も愛もすぐ消える。陸と私の間には、そんな薄っぺらいものはいらない。
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