【完結】鍵をかけた君との恋
 火曜日、放課後の図書館。利き手同士がぶつからぬよう、勇太君は左、私は右に座る。

「俺の顔、何かついてる?」
「う、ううん」
「あははっ。じゃあそんなに見ないでよ」

 何も聞いてこない彼を横に、勉強など全く手につかない。

「勇太君」
「何?」
「私に言いたいこと、ない?」
「え。ないよ?」

 本音なのか取り繕っているだけなのか。彼の気持ちを探りながら過ごす時間は窮屈だった。

 金曜日も彼に誘われて、放課後を図書館で過ごす。明日はもう、体育祭。

 帰り道。繋がれたふたりの手を客観視してしまう。もうすぐこの手を離すと決めていながら何食わぬ顔をしているなんて、悪魔よりも酷い。

「明日の体育祭、乃亜はなんの選択競技にしたの?」

 彼は朗らかに言った。

「ハードルだよ。苦手なのに、ジャンケンで負けて」
「ははっ。確かに乃亜がハードル跳ぶとこ、想像つかないかも」
「勇太君は借り物競走だっけ。去年も出てなかった?」
「うん。去年のお題は『眼鏡をかけた小学生』」
「あははっ。いた?」
「いたけど一年生くらいの子で、途中で泣かれちゃったよ」
「ああ、そうだったかも。今年は簡単なのがいいね」

 何気ない会話。彼に別れを告げた後も、こんな風に関われるだろうか。

 家路別れる交差点。

「じゃあ、次は体育祭終わりの月曜日にでも」
「うん。振替休日だし、私は何時でもいいからね」
「わかった。また時間は追って」

 ばいばい、と互いに言えば、ふたつの手が離れていく。もう二度と、私がこの手を掴むことはない。
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