【完結】鍵をかけた君との恋
「菊池勇太と次に会う日、決まった?」

 辺りをキョロキョロと警戒しながら、凛花は聞いた。

「明後日の月曜日」
「そうなんだ。まじでその日に別れるの?」
「うん」
「やっぱり乃亜は恋愛続かないねー。菊池勇太、どんまい〜」

 グレー一色の空を見上げれば、傷付いた顔の勇太君が浮かび上がる。それに切なくなる自分は、本当に勝手な人間だ。


「見事に倒してたな!ハードル全部!」

 陸にそう指さし笑われたから、私は彼の腹に拳を放った。

「ジャンケンで負けて出ただけなんだから、仕方ないじゃんっ」
「それでも一個くらいは飛び越えろよ。どうやったらあんなにバコバコあたる」
「知らないよ、うるさいなあっ」

 黙らせようと、蹴りも一発お見舞いしてみるが、陸の揶揄は止まらない。

「乃亜が白組じゃあ、俺等紅組の勝ちだな」

 ケタケタといつまでも楽しそうだ。
 しかしそんな彼をピタッと静止させたのは、風に乗って届いた爽やかな声だった。

「乃亜おつかれ。ハードル残念だったね」

 白の鉢巻きを額に括りながら、柔らかに微笑む勇太君。陸の片目は細まった。私は聞く。

「借り物競争のスタンバイ?」
「そう」
「頑張ってね」
「ありがとう」

 どこか視線が合わないなと感じるのは、私の気のせいだろうか。

「なあ、陸」

 いや、はなから彼は、陸に用があったのかもしれない。

「午後の騎馬戦、今日も俺が勝つから」

 一瞬にして、凍てつく空気。

「俺さ、陸には絶対負けたくない理由ができちゃったんだよね」
「なんだよ、理由って」
「知ってるくせに」

 そこで初めて、勇太君はきちんと私を見た。

「今日は俺を応援してね、乃亜」

 そう言って、競技のスタンバイ場所に向かう彼。恐る恐る、陸の顔を覗き込む。

「乃亜が誰を応援しようが勝手だろっ」

 遠ざかる勇太君の背を見つめ舌を弾く陸は、不快を露わにしていた。

「た、ただの体育祭だよ?そこまで真剣にならなくても……」
「いや。ぜってー勇太に勝つ」
「そんな本気出したら、怪我するって」

 肘でとんと陸を小突いたその腕を、彼は掴んで言う。

「お前は今日も、俺のことだけを応援していればいいからっ」

 その腕から、見つめられた瞳から、ぽっぽと体が熱くなっていくさまがわかった。
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