【完結】鍵をかけた君との恋
 勇太君は足が速い。お題が書かれている用紙へと、一番に辿り着いていた。

「おお!菊池勇太はっやっ」

 はしゃぐ凛花の隣、未だに火照る身を抱える私は、これをどう静めようかと悩んでいた。

 俺のことだけを応援していればいいから。

 陸の言葉が、反芻して止まらない。

 紙を開いた勇太君は、うんとひとつ頷くと、目標定めて走り出す。

「え、こっち来てない?」

 凛花の言葉通り、彼は一直線に、私達がいる生徒席へと駆けてきた。

「クラスの友達とか、そういうお題かな」

 校庭中央から全力疾走。ワープにも似たスピードで目の前へやって来ると、彼は叫んだ。

「乃亜、来て!」

 想像だにしなかった自分の名に驚き唖然としていると、周囲の視線が一気にこちらへ向けられる。

「……え。わ、私?」

 己を指さし彼に聞く。

「そうだよ!早くっ」
「え、え。なんのお題……」
「いいからっ」

 いつまでも尻を上げぬ私に痺れを切らせた彼は、椅子の隙間を縫ってすぐそこまで来ると、私の手を引っ張り立たせる。振り返り、彼が確認するのは敵の動き。

「やばいっ」

 彼が焦慮したのは、お題をクリアした紅組のひとりが、ゴールテープへと走る姿が目に飛び込んだから。

「乃亜ごめん。俺ひとりで走った方が速いかも」
「えっ?」

 どういう意味かと問う間もなく、ひょいと宙に浮く体。

「ちょ、ちょっと勇太君!」

 いわゆるお姫様抱っこというかたちで私を抱えた彼は、それと同時に足へとギアを入れた。乱暴に頬をこする風、どんどん上がるスピード。恥ずかしい気持ちに恐怖も相まって、私は彼の胸元へ顔を(うず)め隠した。
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