【完結】鍵をかけた君との恋
「もう騎馬戦?」

 午後の部が始まると、私は再び絶望した。

「そうだよ。男子達入場してるじゃん」

 凛花の指のその先に、今度ははっきり見えてしまう、陸と勇太君の姿。
 どちらが勝つのだろうか。そう考えてしまえば、腹の底がキリリと疼く。


「位置について。よーい……」

 練習と同様に、ピストルの合図で試合は始まった。陸は相変わらず先手をとる。しかし勇太君がそれを躱す。手数が多いのは陸なのに、どうしても勇太君に避けられる。

「乃亜、ずいぶんと静かじゃない?」

 応援の合間、凛花が言う。

「悪いけど今日は陸の応援できないよね。味方の菊池勇太に勝ってほしいわ!」

 彼女のその言葉で、忘れかけていた自分の立ち場を理解する。
 そうか。考えてみれば陸は紅組で敵なのだから、応援などしてはいけない(たぐい)なのだ。

 段々と疲れてきた陸に、勇太君が仕掛け始める。練習の時もこれと似たパターンだった。

 俺のことだけを応援していればいいから。

 陸の声が木霊する。
 校庭はこの日一番の声援で溢れていた。私は目を瞑る。頑張れ、頑張れと願いながら。


「あっ」


 息を飲むような凛花の声がしたかと思えば、同時に静けさが訪れた。恐る恐る目を開く。ぼやけた視界がクリアになれば、天高く、白い帽子を握った拳が目に飛び込んだ。

「り、陸!」

 沸き上がる歓声、唸り声。半々に別れた声援が、校庭一帯を包み込む。

「あーあっ。負けちゃったかあ。この前の練習が本番だったら良かったのになあ」

 凛花は大きく溜め息をついた。勇太君の顔は、見えなかった。
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