【完結】鍵をかけた君との恋
「とりあえず家に来い」と陸に連れられて、彼の自宅に着く。

「乃亜ちゃん、今日見てたよおっ。あの人が乃亜ちゃんの彼氏だったんだね」

 無邪気な楓と、今は話す気にもなれない。

「楓!」

 怒声にも似た陸の声で、楓が止まる。

「乃亜調子悪いから、ちょっと俺の部屋で休ませるんだ。静かにしててくれ」
「そ、そうなの?乃亜ちゃん、大丈夫?」

 心配そうにする楓に、精一杯の笑顔を向けた。

「大丈夫だよ、楓。体育祭張り切りすぎちゃったみたいっ」


 陸に渡されたコップの水を飲みきれずにいると、彼はそれを受け取り、机に置いた。
 ベッドへと促されて横たわれば、陸の重そうな口が開く。

「乃亜……最後の生理、いつきたの?」
「八月の、後半だったと思う」
「遅れてんじゃん」

 途端に曇る、陸の顔。

「うん、遅れてる」

 遅れているだけ、遅れているだけだと私は自分に言い聞かせた。

「勇太の奴、避妊してたんだよな?」

 貫くようなその視線に束の間たじろぐ私だったが、うんと大きく頷いた。

「勇太君、ちゃんと外に出してたもん」

 陸の視線が強くなる。

「……は?」
「だから、中には出してないってば」
「ゴムは?」

 その問いに、私は口を噤んでしまう。
 陸は私の手首をとった。

「何やってんのお前。そんなの、避妊って言わねえから。赤ん坊できちゃうじゃんっ」

 妊娠が決定したような言い方をされて、ムキになる。

「で、できないよっ。何回もしたわけじゃないしっ」
「一回でも二回でも、できる時はできるだろうが」
「できないっ」
「できる」
「できないっ!」
「できんだよ!」

 その瞬間、枕元にずんと陸の拳が沈められて、私は何も言えなくなった。彼が離した私の手首にも、薄らと朱色の筋が残る。

「まじでばかかよ!乃亜も、勇太も!」

 憤慨する陸を見て、否定ができなくなる。もしかしたら、まさか、が現実になってしまう気がして、世界の色が褪せていく。

 陸の枕に顔を押しあてて、涙を流した。鼻から体の芯へと落ちていく彼の匂いに、彼とひとつになったあの夜が思い起こされる。
 けれど。

「勇太の赤ちゃん、産むの?」

 陸がそんなことを聞いてくるものだから、私は再び吐き気を催した。
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