【完結】鍵をかけた君との恋
「ほら乃亜、ここ」

 翌日の朝。ノートパソコンを広げた陸は言う。

「日曜も初診受付してる産婦人科。バスに乗るけど、この辺で知り合いに遭遇するよりはいいよな?」

 寝起きの私が見易いよう、膝下にそれを置いてくれた。

「もう調べてくれたの?」
「バス大丈夫?」
「え?」
「気持ち悪くなったら言って。休み休み行こう」

 当然のように私をサポートしてくれる陸に、胸がキュッと啄まれる。

「ありがとう、陸」

 私が感謝を伝えても、陸は「何が?」と小首を傾げるだけだった。


「そうだっ。おばさんに挨拶しなきゃ」

 ぽんっと手を叩き、ベッドから下りる。体調は昨日よりだいぶ良い。

「もう母さん出かけたよ」
「え、日曜も仕事?」
「ううん。今日は婆ちゃんの施設にみんなで顔出す予定だったから、楓と朝から出て行った」

 居間はガランとしていた。欠伸をしながら冷蔵庫に手をかけた陸に言う。

「もしかして陸も行くはずだった?私、ひとりで病院まで行けるから、大丈夫だよ」

 扉を開けて、牛乳を取り出す陸。

「俺は乃亜について行くって、もう決めた」

 牛乳の他にも、陸はラップがかけられた茶碗を取り出した。

「何それ」
「昨日、夕飯も食べない乃亜のこと、母さんけっこう心配してた。何か食べやすいもの作らなきゃとか言って、おかゆ作ってた」
「え、わざわざ?」
「おう。食える?」

 じーんと心に広がる何かは、低血圧な私のテンションを上げる。

「食う!食いたいっ」


 着替えや荷物を取りに一度帰宅すると、父は新聞相手に競馬の予想をしていて、その隣で奈緒さんが、コーヒーを飲むかと私に聞いた。連絡も入れなかった外泊なのに、我が家はいつもと変わらない日曜の朝だった。

「いらない。それと今日は、昼も夜もご飯いらない」

 それだけを告げて、私はマンションの下で待つ陸の元へと急いだ。
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