【完結】鍵をかけた君との恋
帰りのバス車内、陸と私に会話はない。
思考回路が停止した私は窓の外、目に入った看板の文字を呟くように読んでいく。
「くすり、蕎麦屋、新装開店……」
隣からは、陸の嗚咽が時折聞こえた。
自宅最寄りのバス停に着くと、陸はやたらと明るい声を出した。
「あーあっ、涼しい風だなあっ。乃亜どうするー?うち寄ってくー?」
「行かない」
陸に手も振らず、川沿いを進む。
「おい、どこ行くんだよ」
何も答えぬ私に、彼は黙ってついてきた。
ベンチに座り、川を眺める。今日の川は黒くて荒れてて、今にも飲み込まれてしまいそうだ。
少し距離を取って座った陸は言う。
「乃亜、決めよう」
「んー?」
「これからどうするか」
事実を受け止めきれてもいないのに、なんの討論のしようもない。だから、返事はしなかった。
「乃亜はどう思ったの。妊娠二ヶ月目で、赤ん坊の心臓が動いてるって言われてさ」
妊娠だの赤ん坊だの、今一番聞きたくないワードを言われて、こめかみの血管がじわりと浮く。
「ねえ、乃亜。産むの?それとも──」
煩いと思った。
「なんで、私なの……?」
こんなにも親身になってくれる陸を、ただ側にいたからという理由で八つ当たりの標的にするなんて、自分に刃物を向けたくなる。
「避妊なんかしなくたって、妊娠しない子は世の中にいっぱいいるじゃんっ。どうしてたった二回……たった二回避妊しなかった私が、妊娠しちゃうの?」
いつも私だけ、私だけが恵まれていない気がしてならないんだ。
「リスクって何。どっちに転んだってリスクしかないじゃんっ。体は傷つく!」
小学生で母を失った。父に愛をもらえない。恋人とした初めてが、妊娠に繋がってしまう。
私の心を表現したかの如く乱暴に吹いた風が、決心させた。
「もういいや。決めた」
陸の顔が引きつった。
思考回路が停止した私は窓の外、目に入った看板の文字を呟くように読んでいく。
「くすり、蕎麦屋、新装開店……」
隣からは、陸の嗚咽が時折聞こえた。
自宅最寄りのバス停に着くと、陸はやたらと明るい声を出した。
「あーあっ、涼しい風だなあっ。乃亜どうするー?うち寄ってくー?」
「行かない」
陸に手も振らず、川沿いを進む。
「おい、どこ行くんだよ」
何も答えぬ私に、彼は黙ってついてきた。
ベンチに座り、川を眺める。今日の川は黒くて荒れてて、今にも飲み込まれてしまいそうだ。
少し距離を取って座った陸は言う。
「乃亜、決めよう」
「んー?」
「これからどうするか」
事実を受け止めきれてもいないのに、なんの討論のしようもない。だから、返事はしなかった。
「乃亜はどう思ったの。妊娠二ヶ月目で、赤ん坊の心臓が動いてるって言われてさ」
妊娠だの赤ん坊だの、今一番聞きたくないワードを言われて、こめかみの血管がじわりと浮く。
「ねえ、乃亜。産むの?それとも──」
煩いと思った。
「なんで、私なの……?」
こんなにも親身になってくれる陸を、ただ側にいたからという理由で八つ当たりの標的にするなんて、自分に刃物を向けたくなる。
「避妊なんかしなくたって、妊娠しない子は世の中にいっぱいいるじゃんっ。どうしてたった二回……たった二回避妊しなかった私が、妊娠しちゃうの?」
いつも私だけ、私だけが恵まれていない気がしてならないんだ。
「リスクって何。どっちに転んだってリスクしかないじゃんっ。体は傷つく!」
小学生で母を失った。父に愛をもらえない。恋人とした初めてが、妊娠に繋がってしまう。
私の心を表現したかの如く乱暴に吹いた風が、決心させた。
「もういいや。決めた」
陸の顔が引きつった。