【完結】鍵をかけた君との恋
「産めばいいんでしょ、産めば。高校行かないで子供育てるよ。どうせ高校行ったところで夢もない私の何が叶うわけでもないんだし、行かないよあんなところ。それで結婚できる歳になったら勇太君と結婚して、養ってもらおーっと。勇太君は頭がいいから、きっといい仕事に就くんだろうなあ、楽しみっ」

 ね、と陸に笑みを向ける。この話はこれで完結、終了だというアピールを込めて。

 すくっと静かに立ち上がる陸。彼に向けて振った手は、虫でも払うかのようだった。

「じゃあね陸、今日は病院ついて来てくれてありがとね。さよーならー…」

 その瞬間、ガンッ!と大きな音を立ててへこんだベンチ横のゴミ箱。陸の片足が乗せられている。

「お前……それ、本気で言ってんの?」

 陸の全身から沸き出る殺気。声を失くす。

「お前、高校行くって決めたんじゃねえの?好きじゃねえから、勇太とは別れるって決めたんじゃねえの?全部真逆じゃねえか!」

 陸はまた、豪快にゴミ箱を蹴り上げた。耳を劈く音が響く。

「俺だって堕ろせなんて言えねえよ!お前の体だしお前の未来だし!無事産めて、勇太を好きになれるのが一番幸せなんだろうよ!でも、でもよぉっ!」

 陸は泣いた。ぶわっと溢れる涙も歪んだ顔も隠すことなく、私の前で訴え続けた。

「お前、高校行きたいんじゃなかったのかよっ!乃亜が素直に喜べねえ妊娠なんて、出産なんて、好きでもない奴との結婚だって俺は応援できねえよっ!」

 さっきまでの黒い感情が、ひゅうっと引っ込んでいくさまがわかった。陸の涙が、言葉が、私の真ん中に突き刺さる。
 でも、それでも私は陸に寄り添えない。彼と同じ方角を上手く向けずに、未来を絶望視してしまう。

 泣きじゃくる陸のことを、ひたすら見つめていた。「何か言えよ!」と怒鳴られたかもしれないし、何も言われなかったかもしれない。

 闇なんかどこにでも現れて、そこに堕ちようと思えば人間すぐにでも堕ちていける。いつも淵ギリギリの場所に立っていた私は、今日見事に堕ちていったんだ。底から見える陸の手は遠すぎて、掴もうとすら思わない。
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