【完結】鍵をかけた君との恋
「母さん達、そろそろ帰ってくるって」

 数十分後。携帯電話を操作しながら、陸は言った。私は口元を押さえていた。

「乃亜?」
「ごめん、吐くっ」

 トイレの中、陸は私の背中をずっとさすっていてくれた。ハアハアと荒い呼吸の合間、せっかく陸と一緒に食べたうどんが便器に流れていくのが見えて、涙が出た。


 洗面所で口をゆすぎ居間へ戻ってくると、携帯電話片手に何やら顰め面の陸。

「陸、何してるの?」
「『つわり』で検索してた」

 陸は画面を指でなぞる。

「人によって気持ち悪くなる臭いや、苦手になる食べ物が異なるんだって。だから全然参考にならなくて困ってた」

 お腹の子は陸の子ではないのに、一体彼はどこまで世話を焼いてくれるのだろうか。

「お、乃亜見て!柑橘系の食べ物でつわりを乗りきった人がいるって!ゼリーも食べ易いのか。後で買ってこようぜ」

 真剣でしかない陸の横。くふふと笑いを堪える私に彼は聞く。

「なんで笑ってんの?」
「だって陸、旦那さんみたいなんだもんっ。妻の初めての妊娠にあたふたする、新米夫っ」

 笑いの止まらぬ私とは対照的に、陸は耳を赤く染めた。

「わ、笑うならもう調べてやらんっ」
「ごめんごめんっ」

 陸の手をもし掴むことができたなら、未来は明るいのだろうか。
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