【完結】鍵をかけた君との恋
 一番星がひとつ瞬く空の下、近所の広場のベンチに座る。

「乃亜、今日はありがとう。なんか丸一日かかっちゃったね。体調大丈夫?」
「平気だよ。こっちこそ勇太君のご両親にわざわざ来てもらっちゃって、ありがとう」

 勇太君の口元は微笑んでいるのに、瞳には悲しみの色が見てとれた。

「俺達が大人だったら、この子の未来は変わっていたのかな……」

 私のお腹に手をあてがった彼は「悔しい」と歯を食い縛った。この人は命の尊さを知っている。お腹の上の彼の手に、私も自分の手を置いた。

「ねえ、勇太君」
「うん?」
「この子の父親が、勇太君で良かった」

 その言葉で、彼の瞳が揺蕩った。

「心の底からちゃんとこの子を想ってくれる、勇太君で良かった」
「乃亜……」
「勇太君ってほんと、すごいねっ」

 広場では、キンモクセイの香りが漂っていた。だけど突然、勇太君の匂いしかしなくなった。

「勇太、君……」

 それは、彼が私を抱きしめたから。

 彼の腕の中は、秋の夜にも関わらず熱かった。そして、そのタイミングでどうしてだか。

「乃亜?」
「は、吐きそうっ」

 つわりが私を苦しめる。
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