【完結】鍵をかけた君との恋
「ごめん勇太君。み、見ないで……」

 公衆トイレへと飛び込んだ私は、付き添おうとした勇太君を突き放し、上着だけを彼に預けた。今日はほとんど何も食していないから、胃液が喉を刺激し痛い。

 涙ぐみながら不快な時間をトイレで過ごしていると、プルルと聞こえた着信音。私のものか、勇太君のものか。例え私のものだとしても、携帯電話は上着のポケットの中にある。そしてこの状況では、出るに出られない。

「はい」

 着信音が止むと同時に、彼の声がした。

「乃亜ならまだ一緒にいるよ。え?別れてないけど」

 鳴っていたのは私の電話。そしてその相手は陸。話の内容から、そう悟った。

「もう切っていい?どの立場で言ってくるんだよ」

 焦りも戸惑いも襲うのに、どうしようもない吐き気のせいで、私は未だに便器から顔を上げられない。

「乃亜は俺の彼女だ。気安く電話なんてしないで欲しい」

 心労が、気持ち悪さに拍車をかける。
< 90 / 197 >

この作品をシェア

pagetop