【完結】鍵をかけた君との恋
 産婦人科の先生が目を丸くさせたのは、その日の放課後。

「あら、この方はどなたかしら?この前の彼と違うけど」

 無神経な彼女の発言に私がわたわたしていると、勇太君は「彼氏です」と、堂々と言ってのけた。

「ああ、この前一緒にいらっしゃった男の子は、身内の方だったのねっ。私、てっきり彼があなたの恋人だと思って、厳しく注意しちゃったわ。謝っておいてちょうだいっ」

 オホホと上品に笑ったところで、許さないと心に決めた。

 勇太君のご両親も一緒に中絶の説明を聞いて、手術日も決めて、その日は終わった。


 帰りのバス車内。私の隣に腰を下ろしたのは、勇太君の母だった。

「乃亜ちゃん、お父さんにも承諾書を書いてもらってね?」
「はい」
「体調はどうかしら。大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「本当にごめんなさいね、勇太のせいでこんなことになって。お金は全てこっちでもちますって、お父さんに伝えといてもらえる?」
「え、そんな、悪いですっ」
「いいのよ。息子には代わってあげられない手術を、乃亜ちゃんが来週するんだもの。お父さんもきっと、気が気じゃないわ。せめてお金だけでも」

 父は私に興味がない。私を気にかけてくれるのはいつだって他人だ。それはとても有難いことで、感謝すべきことなのだけど、その度、胸にぽっかりと穴が開いてしまうのは、どうしてなのだろう。
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