【完結】鍵をかけた君との恋
「ただいま……」

 帰宅すると、食卓にはラップがかけられた炒め物と、冷めきったご飯が乗っていた。ネットでつわりを調べて、柑橘系のゼリーを本当に買ってきた陸を思い出す。

 夕ご飯として用意されたそれ等全てをゴミ箱に放りながら、私は涙も一緒に捨てた。

「私、妊婦なんだけどっ……」

 周りに優しくされればされるほど、家に帰ってからが辛い。どうやったって父との溝は埋まらない。

「手術までの一週間くらい、心配してよ……」

 放っておかれるのは昔から。それは母が死んだところで変わらなかった。それなのに、どん底の時くらいは家にいて欲しいと望んでしまう。そんな自分を憐れに思った。

 
『乃亜。手術の日までの塾は全部休んだから、なるべく三人で一緒にいようね』

 携帯画面の中。お腹の子をひとりの人間としてカウントしてくれる勇太君を尊く感じる。次に病院へ行くその日まで、赤ちゃんが死ぬその時まで、私達は許される限りの時間を三人で過ごすと決めた。
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