【完結】鍵をかけた君との恋
「菊池勇太と別れるんじゃなかったの?」

 手術をとうとう明日に控えた昼休み、凛花は私に聞いた。

「むしろ最近仲良しじゃん。放課後毎日デートしてるけど、恋人関係続行するの?」

 妊娠の「に」の字も話していない彼女には、言えることが少ない。

「そ、そうだったんだけど、別れ話するタイミング逃しちゃって。また頃合い見て切り出そうかなって思ってる」

 心配はかけたくない。凛花を含め受験生は皆、忙しいのだ。

 潔さが売りの彼女は深く突っ込むこともせず、早々と話題を変えてくれた。

「そういえば、この前のあのふたりの喧嘩は何が理由だったの?気になる〜」

 しかし、切り替えた話題の方向は悪かった。

「知らない、聞いてない」
「え!まじで?彼氏と幼馴染が流血したんだから、普通聞くでしょ」

 私が絡んでいない保証があるならば、私だってそうしたい。

「乃亜がよくわからないわあ」

 そう凛花に呆れられて、私も自分を鼻で笑う。

「意味わかんない人間だよね、私って」


 勇太君と別れた帰り道。太陽が西に沈む頃。いつものコンビニへ立ち寄ると、袋を提げた陸に声をかけられた。

「うっす」

 まだ微かに残っている、口元の傷。

「う、うっす」
「何買いに来たの?柑橘系のゼリーなら、もう買い占めたぞ」

 その言葉で陸の持つ袋を覗く。そこに見えるは、みかんやレモンの絵が描かれた多量のゼリー。

「買いすぎっ。お金払うっ」
「いいって。母さんも買ってやれってお金くれたし」

 でも、と財布を取り出すが、陸に睨まれ断念した。
< 95 / 197 >

この作品をシェア

pagetop