冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
六章 囲われて
「――以上が、モビリティの未来を考える上で欠かすことのできない要素です」

 研究者のひとりが打ち合わせを締めくくり、あさひは手嶋とともに頭を下げた。

「お話しいただきありがとうございました」

 手嶋に修正させた企画書が役員の目に留まったおかげで、あさひと手嶋は新プロジェクトの主導を任された。
 今日は本格始動の前により広い知見を得るため、記事の元となった研究について、研究者の話を聞きにきたのだった。
 あさひはホワイトボードを備えた会議室のスクリーンから、手元のノートパソコンに目を移す。
 ちらっと手嶋を盗み見れば、のっそりとした体躯は猫背で曲がっているものの、その目にはこの件に対する意欲がうかがえた。

「大変革新的な研究だと感じました。いくつか質問をさせてください。先ほど出てきた環境コストの概念ですが——」

 疑問点をひとつずつ洗い出しては、ぶつけていく。事前に勉強した内容とすり合わせながら、あさひは研究者の回答を基にさらに議論を重ねた。

「つまり、今後の開発にあたってもっとも必要なのは——」

 あさひが議論の骨子をまとめ、自社にとって有用なシステム作りの視点から提案をすると、三人の研究者らがそれぞれ大きくうなずいた。

「おっしゃるとおりです。それが可能になれば、モビリティの未来はまだまだ大きく広がるでしょう」

 あさひは手嶋にも質問がないか確認する。手嶋は「あ、いや……」と言うだけで質問が見つからない風だったため、そこで議論は切り上げとなった。

 今日はただ話を聞きにきただけじゃない。あさひはこの研究を生かすべく、ひとつの提案を切りだす。

「では、この件をぜひ弊社と共同研究しませんか? 今日のお話をうかがって、皆さんにとっても有為なものになると確信しました。ぜひとも両者での相乗効果を狙いたいのです」
「それは願ってもない! 私らにとっても、新たな発見が得られるでしょう。ただ、まずは目指す方向性の確認をしたい」
「もちろんです。ではまず――」

 研究者の代表格の教授が食いつく。たしかな手応えを感じ、あさひは手嶋と目線を合わせた。

「ではさっそく、話を進めましょう。今後はこちらの手嶋が弊社の窓口として本件を主導いたします。大変有能ですので、なんなりとお申しつけください」

 任せられるとは思っていなかったのか、話を振られた手嶋が焦って挨拶する。
< 101 / 116 >

この作品をシェア

pagetop