冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
 その後は手嶋共々、あさひも各方面との調整に追われた。
 基本的に仕事を進めるのは手嶋だが、あさひもサポートするうちに定時を過ぎていた。
 向かいの席の手嶋は、先日までの鬱屈が嘘のように張り切っている。
 思えば、あさひも研修から本体に戻ってきたころは、仕事を覚え始めてがむしゃらだった。

(懐かしいな)

 根を詰めさせてもよくないだろうと、あさひは席を立った。飲み物でも差し入れしよう。
 トイレを済ませてから、自販機のあるリフレッシュスペースに向かう。ところが、開放されたドアの内側から聞こえてきた声に、あさひはドアの手前で足を止めた。

「——碓井チーフが付き合ってる相手は、統括ですか?」

 手嶋だ。彼も一服しにきたのだろうか。話し相手は凌士らしい。
 凌士と付き合っていることは、社内には伏せている。婚約もしたのだから、と凌士はすぐにでも公表したそうだったけれど、あさひは待ってもらっている。

 けれど、とあさひは今さらながらに、先日の景との一件を結麻に見られてしまったのを思い出した。
 あのときはそれ以上、ふたりにかまう余裕もなくカフェテリアを出たが、景が言うとも思えないから、彼女が手嶋に話したのかもしれない。

 でもそれなら質問ではなく断言するはずか、とあさひは思い直す。

(じゃあ、なんで……?)

 その疑問は次の手嶋の言葉で解けた。

「チーフが統括を見るとき、表情が明らかに違うんすよね。女って感じで、気ぃ抜けてる」

 あさひは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。まさか顔に出ていたとは思いもしなかった。

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