冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
タイミングをおなじくして、あさひのスマホが着信を知らせた。あさひは手嶋から視線を外して電話に出る。
「――今日は何時に上がれる?」
凌士が開口一番に言う。
あさひはちらっと手嶋を見て声を落とした。
「わたし自身はいつでも上がれます。あとは、キリのいいところまで付き合ってから……」
手嶋くんに、と言う前に凌士が遮る。
「手嶋の面倒を見るのも大概にしておけ。下で待ってる」
心なしか不機嫌そうに聞こえる。
(え、もしかして凌士さん、拗ねてる?)
あさひはパソコンのモニターに表示されたファイルを片手で次々に閉じながら、声をやわらかくした。
「すぐ行きます」
オフィスフロア専用の出入り口から裏通りに出ると、冷たくも春の気配を帯びた風が、あさひの髪を揺らした。
職場との寒暖差に首をすくめずにはいられない。あさひはアイスブルーのコートの前をかき合わせる。
凌士の姿を探して首をめぐらせると、凌士は道路の向かい側で夜を煌々と照らす自販機のそばに立っていた。
「お待たせしました。寒かったでしょう」
白い息を吐いて駆け寄ると、凌士が笑みを深くした。
「早かったじゃないか。上司を待たせるのは怖いか」
あ、とつい口をついた。
統括を待たせるなんて、一分でも怖い、と言った日のことを思い出す。
ふたりで紅葉を見たあのころは、まだ凌士に対して恐れと遠慮があった。戸惑いも。今とは大違いだ。
あさひは笑って首を横に振った。
「凌士さん、拗ねてたでしょう。帰るって言ったら、手嶋くんには困った顔をされましたけど」
「困らせとけ」
軽く腰を引き寄せられ、あさひは凌士の隣に収まった。駅までの道を並んで歩く。
凌士の歩みは、普段あさひと並ぶときよりわずかに早い。まるで、早く会社から離れようと言わんばかりで、胸がとくりと鳴った。
手嶋との会話を立ち聞きしてしまったと言うべきか迷って、やめる。しばらくは、あさひだけの秘密だ。
「――今日は何時に上がれる?」
凌士が開口一番に言う。
あさひはちらっと手嶋を見て声を落とした。
「わたし自身はいつでも上がれます。あとは、キリのいいところまで付き合ってから……」
手嶋くんに、と言う前に凌士が遮る。
「手嶋の面倒を見るのも大概にしておけ。下で待ってる」
心なしか不機嫌そうに聞こえる。
(え、もしかして凌士さん、拗ねてる?)
あさひはパソコンのモニターに表示されたファイルを片手で次々に閉じながら、声をやわらかくした。
「すぐ行きます」
オフィスフロア専用の出入り口から裏通りに出ると、冷たくも春の気配を帯びた風が、あさひの髪を揺らした。
職場との寒暖差に首をすくめずにはいられない。あさひはアイスブルーのコートの前をかき合わせる。
凌士の姿を探して首をめぐらせると、凌士は道路の向かい側で夜を煌々と照らす自販機のそばに立っていた。
「お待たせしました。寒かったでしょう」
白い息を吐いて駆け寄ると、凌士が笑みを深くした。
「早かったじゃないか。上司を待たせるのは怖いか」
あ、とつい口をついた。
統括を待たせるなんて、一分でも怖い、と言った日のことを思い出す。
ふたりで紅葉を見たあのころは、まだ凌士に対して恐れと遠慮があった。戸惑いも。今とは大違いだ。
あさひは笑って首を横に振った。
「凌士さん、拗ねてたでしょう。帰るって言ったら、手嶋くんには困った顔をされましたけど」
「困らせとけ」
軽く腰を引き寄せられ、あさひは凌士の隣に収まった。駅までの道を並んで歩く。
凌士の歩みは、普段あさひと並ぶときよりわずかに早い。まるで、早く会社から離れようと言わんばかりで、胸がとくりと鳴った。
手嶋との会話を立ち聞きしてしまったと言うべきか迷って、やめる。しばらくは、あさひだけの秘密だ。